40話)
「・・・さすがに今回のシチュエーションは、興奮したよ。」
ソファの上で交わった後に、ポツリと歩はつぶやく。
そして、離れようとする歩に、茉莉は抱きついていった。
「まだ、離れないで、あなたのが出て言ってしまうもの。」
と必死にしがみついて訴える茉莉に、歩がクスクス笑って、こう答えるのである。
「今日は、何回したって子供は出来ない日のはずだよ。2.3日前に生理が終わっていたろ?。」
なんて、視線を宙に浮かしながら、つぶやくのである。
一瞬、耳を疑ったコメントだった。
「なんっ。なぜ私の生理の日なんか知っているの?」
と問いかけると、歩は首をかしげて、
「当たり前じゃないか。万が一にも真理を妊娠させるヘマはできないからね。」
言われてハッとなる。
「じゃあ。避妊具をつけたり、つけなかったりしたのも?」
「それを付けてした日は、危険日だ。膣外射精でも受胎する可能性があるから・・っていうか、今日。子作りを頼む茉莉って・・。」
言いながら、クスクス笑っている。
笑いながら、ゆったり腰を動きだすものだから、ひょっとしなくても二回目の始まりなのだろうか。
「ここで続きをするのは、さすがにつらいね。
床に降りようか。」
ささやいてくるので、
「歩さん・・ここでは勘弁して・・。」
と呟き返す。首をかしげる彼に、
「・・私の部屋でして・・。」
と訴えると、歩の瞳が愉快気に踊った。
「私の部屋なんて・・そうか俺、そこでは寝ないものな。」
なんて呟き、コクンとうなずくと、
「それもいい。じゃあ、そうしよう。」
言って歩はもう一度服を着だして、茉莉の手を引いて起こした。
・・・茉莉の部屋で果てて、覆いかぶさる歩に、
「真理は茉莉でしょ?」
と問いかける。彼は顔を浮かして、首を傾げる。
少しの間、考えこんでいるように沈黙していた彼だが、ポツリ
「そうだなあ。今の茉莉は“素”の茉莉だ・・。」
とささやき返してくるのだ。
「茉莉も愛して・・。これからも・・。」
言うと、苦笑する。
「今の君でいてくれる限り、俺は君の側にいるし、何度でもスルよ。」
「同じなのよ。茉莉も真理も・・。」
言った瞬間、歩は辛そうな顔をした。
「本当に気付いていないんだね。
河田茉莉でいる時の君は、繕っている感じがミエミエなんだよ。
無理して“河田茉莉”を、演じているようにしか見えないんだ。結婚する前だってそうだ。
“高野茉莉”を演じていた。
本当の君は、マンションにいた時の自分だろ?。
俺は、リラックスして笑う君の笑顔が好きなんだ。
完璧な女王の姿じゃない。時にはちょっとスネてみたり、ドラえもんの映画に文句つけたりしたり・・ピザをおいしいって言って、大口あけてアツアツっている君が・・・。」
言いながら肩の力が抜けたようだ。
「・・・さすがに昼間まで“素”の茉莉でいてとは言わないよ。
河田家内では、そのままの君じゃあ務まらないしね。さすがに強制しない。
けれど二人っきりの時とか、ベットの上での君は、今のままでいて。
本当の“マリ”を見せて・・。
クイーンの側にいたいんだ。俺のひまわり・・・。」
「・・・・。」
(・・・全部、私なのに。
っていうか。また。ひまわりって言ってる。
クイーンって何よ!)
眉をひそめて首をひねる茉莉なのだった。
次の朝、朝の支度の世話をするために、顔をのぞかせたメイドが、夫婦の部屋で二人で眠る姿を認めて、仰天する一幕のおまけがついた。
ほどなくして、茉莉の懐妊の報が、親戚一同にもたらされた。
用もないのに、顔を出してくるお互いの両親の表情を見た茉莉は、この妊娠が、どれほど周囲に待ち焦がれていたのか、実感するのである。
一年もたたずに、玉のように美しい男児が産声を上げる。
『河田榛』(かわだ しん)と名付けられた嬰児は、河田家の将来を証明しているかのように明るく輝いていた。
・・・・次回はエピローグへ・・です。

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